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能動的サイバー防御への転換が導く社会インフラの強靭化

高まる脅威と求められる変革

2024年10月23日、経済同友会は新たな政策提言を発表しました。その核心は「能動的サイバー防御」の早期導入にあります。提言の特筆すべき点は、重要インフラ事業者へのサイバー被害報告の義務化と、経営陣によるサイバーリスクの経営課題としての明確な位置づけです。この提言の背景には、サイバー攻撃の高度化・組織化と、それに伴う被害の甚大化という深刻な現実があります。

現実が示す防御強化の緊急性

国内事例
  1. 自動車産業におけるサプライチェーン攻撃(2022年)
    事象:部品サプライヤーへの攻撃による生産停止
    影響範囲:完成車メーカーの生産ライン停止(約24時間)
    教訓:サプライチェーン全体での統合的セキュリティ管理の重要性
海外事例
  1. コロニアル・パイプライン社ランサムウェア事案(2021年)
    規模:米国最大の石油パイプライン運営会社
    被害:
    • 東海岸の燃料供給網の1週間停止
    • 440万ドルの身代金支払い
    教訓:基本的セキュリティ対策(多要素認証等)の重要性
  2. ソーラーウインズ社サプライチェーン攻撃(2020年)
    手法:正規アップデートを介したマルウェア配布
    影響:米国政府機関を含む数万組織への被害波及
    示唆:高度なサプライチェーン攻撃への対策必要性

能動的サイバー防御

従来の「待ち受け型」から「先制的」防御へ。これが能動的サイバー防御の革新的な本質です。この新しいアプローチは、以下の3つの要素で構成されています。
1. 予測的防御: 攻撃傾向の分析と予測
2. プロアクティブな検知: 早期警戒システムの確立
3. 事前封じ込め: 攻撃経路の先行遮断

実装の中核となるのが、脅威インテリジェンスの収集と脅威ベースのペネトレーションテストです。このテストでは、実際の攻撃者の手法を精密に再現し、システムの脆弱性を包括的に特定・対策します。

サイバーセキュリティにおける「ギブ・アンド・テイク」の重要性

現在、多くの企業がサイバー攻撃に関する情報共有に消極的です。その背景には、レピュテーションリスクへの懸念や、情報提供の見返りが不明確という課題があります。また、企業のセキュリティ投資に対する考え方も大きな課題となっています。多くの企業が、セキュリティ対策を「コストセンター」として捉え、必要最小限の投資に留めがちです。
しかし、サイバー攻撃への効果的な対策には、企業と政府の間での積極的な情報共有が不可欠です。そこで重要となるのが、「ギブ・アンド・テイク」の関係構築です。企業が提供する情報(ギブ)に対して、政府は有益な分析結果や対策情報を還元(テイク)する。この互恵関係を確立することで、企業の情報共有への積極的な参加を促し、社会全体のサイバーセキュリティ強化につながります。同時に、セキュリティ投資を「事業継続性を確保するための戦略的投資」として捉え直すことで、より効果的な防御体制の構築が可能となります。

サイバーレジリエンスの確立に向けて

サイバー空間の脅威は、その性質を日々進化させています。この環境下で、能動的防御への移行は、もはや選択肢ではなく必須の経営戦略となっています。経済同友会の提言を契機として、官民一体となったサイバーセキュリティ体制の構築を加速させる必要があります。

企業には、この提言を単なる指針としてではなく、具体的な行動計画として捉え、実装していくことが求められます。私たちの社会基盤の強靭化のために、能動的サイバー防御への転換は、まさに今、実行に移すべき喫緊の課題なのです。

おわりに

サイバーセキュリティは、もはや単なる技術的課題ではありません。それは、社会全体の強靭性を左右する戦略的イシューとなっています。能動的サイバー防御の導入は、この課題に対する具体的かつ効果的な解決策を提供するものであり、その実現に向けた取り組みを、私たち全員で推進していく必要があります。